15-16シーズンプレビュー・ヘルタ編

船長は船にGPSを搭載し、船員を鍛錬し、安定した航海へと挑む

【この記事は、管理人が『「フットボール狂の宴」用のブロマガ』にヘルタ担当として寄稿したものです。】

(「13人の愛好家による、どこよりも濃い独ブンデスリーガ2015-16シーズンプレビュー」http://ch.nicovideo.jp/football-kyo-no-utage/blomaga/ar851099

ヘルタは昨シーズンのレビューで述べたように、混迷を極めたシーズンだった。ファンとしては、今シーズンこそは残留争いから早々に離脱し、一部残留を決めてもらいたいところだが、おそらくヘルタの前に立ちはだかるのは今シーズンも荒れ果てた海だ。船長はどのようにかじ取りをし、最終的にどの港にたどり着くだろうか。

 

まず、新シーズンの退団、補強の状況を整理する。退団したのは、ハイティンハ、ブルヒャート(レンタル)、ヌジェンク、ニーマイヤーの4選手。ここに構想外のヴァグナーを加えてもいずれもバックアップメンバーであり、船を支える屋台骨ではない。

一方補強は、レンタルバックのアラグイを除くと、ヘルタは補強に回す資金が豊富ではないが、フライブルクから運動量が豊富なダリダ、バイエルンからスピードがありテクニカルなヴァイザーを補強することに成功した。

ダリダは、1試合で約13キロも走る豊富な運動量を持ち、ヘルタの問題点だった中盤の攻撃力をアップさせることは間違いない。実際、キャンプでダルダイ監督の評価も高く、信頼を一気につかみ鍵となる選手の一人だ。

ヴァイザーは、現在負傷のため離脱しているが、右SBとしても中盤のサイドでも起用できダルダイ監督が望むスピーディーな攻撃にあった選手である。他チームの補強と比較すれば、大々的な補強はなく必要最低限の補強にとどまった感じは否めない。しかし、移籍市場で買い物をする資金がないと嘆いたところで何も事態は変わらない。

そこで、ダルダイ監督は、育成部門から選手をトップチームに練習参加させ、オーストリア合宿にはミッテルシュテット(左MF)、コールス(ボランチ)、カウター(センターバック、右SB)の3選手を帯同させた。特にミッテルシュテットは昨シーズンもトップチームにベンチ入りするなど注目を集めている。

ダルダイ監督に言わせれば、こうした育成部門からのタレントは、「ヘルタの未来」である。このコメントからも、監督はおそらく中長期的観点から若手を試合で起用し、成長させようという思惑はあるだろう。いまひとつヘルタでは次のステップに進めきれていないシュルツも含めこれらの若手が成長すれば面白い存在にはなるはず。

しかし、現実的にはチームが早々に残留争いから抜けることが望ましい状況だろう。経験がないタレントたちに過酷な残留争いで何かを望むのは高望みだ。

次に、チームの仕上がりはどうか。ダルダイ監督は昨年途中の就任時、当時のチームのフィジカル面には不満だった。そこで今シーズン、彼は以前ヘルタでアスレチックトレーナーを務めていた氏をシャルケから連れ戻してきた。また、4万ユーロを投資し、GPSによる選手の走行データを収集・分析する装置一式を導入した。このGPS装置で故障しないぎりぎりの負荷をかけクフノコーチが作成するクフノツアーとも呼ばれる過酷なフィジカルトレーニングにより選手のフィジカル面を徹底的に鍛えあげた。

戦術面では、昨年同様守備のブロックを構築し、素早い攻撃を狙う形は昨年同様。守備面は昨シーズンがベースとなり、チームが連動してプレスをかける形はできている。あとは、ブロックの位置を昨シーズンからどれだけあげることができるかだ。シーズン前のテストマッチを見る限り守備面に関してはけが人さえ出なければ不安はない。

一方、攻撃面では、オーストリアキャンプで、ダルダイ監督はボールの支配率を上げること、素早いパス回しを選手に求めた。昨年のヘルタはパス成功率が低く攻撃の形も今一つ見えなかったがテストマッチでは改善されつつあるのは見えた。しかし、チャンスは作れても得点するという最後の部分はまだまだだ。ダルダイ監督は「サッカーの35%は運でできている。」、「(プレーするのは選手であり)自分は魔法使いではない。」とコメントし、出来に不満なカルーに個人練習をさせるなど手を尽くしてはいる。その一方で、「生粋のストライカーがいない。」ともコメントしており、得点力でという点でアラグイ、シーバーが復帰するまで苦しむ可能性はある。

 おそらく現時点での基本布陣は図の通りになるだろう。(2015年8月5日時点)

以下各ポジションを見ていく。

GKは今シーズンもクラフトが務める。ヤルシュタインはクラフトを脅かす存在にはなりきれていない。

守備陣は、昨シーズンと陣容は同じで、基本は右からペカリク、ラングカンプ、ブルークス、プラッテンハルトとなる。特にラングカンプは 守備を引き締める意味で欠かせない存在だ。彼とコンビを組むのはブルークスだが、ルステンベルガーの可能性もある。ハイティンハが退団したため、けが人や 出場停止者が複数出るとセンターバックは厳しくなりそう。左はプラッテンハルト。今年はもう少しオーバーラップからクロスを上げる回数を増やしたい。

中盤は、守備的MFをルステンベルガーと シェルブレットが争う。ハーフは新加入のダリダで決まり。ケガから復帰したチゲルチも虎視眈々とチャンスを狙う。右サイドはダルダイ監督の信頼が高いベー レンスがおそらく務めることになる。ゲームメーカーは、現時点ではヘゲラーが優位に立っているようだ。これにともないシュトッカーが左に回ることになりそ う。バウムヨハンはアクセントをつけられる選手だが、二度の靱帯断裂から復帰したばかりで、監督もコンディションを気にしている。左サイドはセンターから 回ったシュトッカーが一番手か。これを原口、シュルツがこれを追う。

トップはけが人が出ており、カルーしか登録上はいないが、キャンプでは原口やシュルツも試された。

なお、ヘルタの日本人二選手についてだが、まず細貝選手は残念ながらかかとの炎症で再び離脱することとなり、現状ではボランチの4番手と厳しい立場にある。ファンとしては、ヘルタ1年目の活躍をもう一度見たいところだ。

一方、原口選手は昨シーズン終盤に出番を得て、監督の期待に応えた。テストマッチでは、右に左にセンターにといろいろなポジションで使 われている。監督は浦和時代に得点を量産していた時のビデオを見たそうで、得点力がチームの課題であるため期待をしている。現状はジョーカーとして使われ そうだが、スタメンで出る能力はあるので、チャンスを生かし、ポジションを奪いたいところだ。

 最後にヘルタは今シーズンも航海が予想されるが、浮上するポテンシャルはある。ファンとしては厳しい嵐もあるだろうが、チームの成長を楽しみながらシーズンを送りたいと思う。

  ヘルタのクラブ名は、この船に由来しています。

※この記事の原稿は2015年8月5日に作成したため、シーズン後の移籍・新加入について内容に反映されていません。